脳神経疾患が疑われる急患の紹介(医療関係者の皆さまへ)
脳神経疾患が疑われ,緊急に対処が必要な(あるいはその判断に迷う)場合は,当院の電話交換で「今日の責任者(マネージャー)」を呼び出していただければ,できるだけ迅速に対応いたします.
脳神経内科での後期研修について
脳神経内科では,広島県だけでなく他都道府県からの当院の内科研修プログラムへの応募も歓迎しております.所属医局,入局の有無は問いません.当院2年+院外1年ですが,院外研修は豊富な連携施設から選ぶことができます.興味のある先生は是非お問い合わせ下さい.下記の紹介動画もぜひ一度ご覧下さい。
脳神経内科とは
脳神経内科は、一言で言えば「脳・脊髄・末梢神経・筋肉の病気を診る内科」です。以前は神経内科と呼ばれていましたが、神経科・心療内科などとの違いが分かりにくいということで、2018年以降に全国で名前の変更が行われています。ではどのような症状のある方が脳神経内科を受診すれば良いのでしょうか?脳神経内科で扱う症状は実に多彩です。
代表的な症状としては、「頭痛」、「めまい」、「しびれ」、「ふるえ」、「物忘れ」、「けいれん」、「うまく力が入らない」、「身体の脱力」、「ろれつが回らない」、「見にくい」、「筋肉のやせ」、「筋肉の痛み」、「意識障害」などがあります。このような症状でお困りの場合は、脳神経内科への受診をお勧めいたします。もちろん、これらの症状が全て脳神経内科の病気というわけではなく、他の診療科が扱う病気の場合もあります。その可能性が高いと判断した場合は、適切な診療科に紹介させて頂きます。
では、このような症状を起こす脳神経内科の病気にはどのようなものがあるでしょうか?扱う症状も多いので、病気も一般的なものから稀なものまで多岐にわたります。
主な病名としては、「脳卒中」、「頭痛(片頭痛・緊張型頭痛)」、「てんかん」、「アルツハイマー病」、「レビー小体病」、「血管性認知症」、「パーキンソン病」、「パーキンソン症候群」、「運動失調症」、「髄膜炎、脳炎」、「重症筋無力症」、「免疫性ニューロパチー」、「代謝性・遺伝性ニューロパチー」、「ミオパチー」、「筋ジストロフィー」、「急性脳症」、「筋萎縮性側索硬化症」、「球脊髄性筋萎縮症」などを診療の対象としております。
脳神経内科は、「脳卒中」、「てんかん発作」、「髄膜炎、脳炎」など救急医療を必要とすることの多い病気から、じっくりと診察をする必要がある「神経難病」までさまざまな病気を扱います。救急疾患については、救急科・脳神経外科などと協力し、迅速に対応させて頂きます。一方、救急以外の「神経難病」などが疑われる場合は、基本的には予約での外来診療を行っておりますので、まずはお近くの「かかりつけ」の先生を受診し、ご相談頂ければと思います。
脳神経内科の医師は、一般的な内科の経験を積んだ後、脳神経内科全般の専門的知識と技術を習得します(脳神経内科の専門医)。さらにその専門性にあわせて、脳卒中、脳神経血管内治療、頭痛、認知症、臨床生理、てんかんなどのさらに細分化された知識と技術を習得します。(各種学会の専門医) 当科の医師のプロフィールは、「医師紹介」の項をご参照ください。
当科では、入院された方につきましては、その病気にあわせた複数医師のチームで担当させて頂いております。したがって、外来担当医とはまた違う医師が担当になることもあります。また、限られた医療資源を最大限有効にするため、病院同士の連携、病院とクリニックの連携を重視しております。当院での治療が終了した場合には、他の病院への転院やクリニックへ紹介させて頂いております。ご理解の程、よろしくお願い申し上げます。
当科で実施し,論文化された最近の臨床研究について
1. Initial deterioration and intravenous methylprednisolone therapy in patients
with myasthenia gravis
(重症筋無力症の患者における初期増悪と静注のメチルプレドニゾロン療法)
Journal of the Neurological Sciences 2020;412:116740
杉本太路,越智一秀,石川若芸,田妻 卓,林 正裕,峰 奈保子,内藤裕之,野村栄一,郡山達男,山脇健盛
重症筋無力症に対するステロイド治療において,症状の初期増悪は注意が必要である.今回我々は,重症筋無力症の患者において初回の静注のメチルプレドニゾロン療法(パルス療法)と初期増悪の関係について検討した.51人の重症筋無力症の患者において,定量的評価法では21人(41%)に初期増悪がみられた.初期増悪が起こった症例では,治療開始から4日目(中央値)に初期増悪が生じ,3日間(中央値)持続した.多変量解析では,初期増悪が生じることは,重症筋無力症が重症であることおよび胸腺摘出術を行っていることと有意に関係した.
ー当科では重症筋無力症の診断と治療に積極的に取り組んでいます.
2. Clinical comorbidities correlated with a response to the cerebrospinal fluid tap test in idiopathic normal-pressure hydrocephalus
(特発性正常圧水頭症において髄液タップテストへの反応性に関係する臨床的合併症)
J Neurol Sci. 2021 Nov 15;430:120024. doi: 10.1016/j.jns.2021.120024.
内藤裕之,杉本太路,木本和希,阿部貴文,河野智仁,松岡千加,大野成美,儀賀麻由実,河野智之,上野弘貴,野村栄一
2010年から2021年までに当科に特発性正常圧水頭症の髄液タップテスト目的で入院した75人を,タップテストで改善した38人と改善しなかった37人の2群に分けて比較を行った.多変量解析では,症状が改善しないことは,高度な大脳の白質病変および変形性腰椎症と有意に関係していた.75人中22人で,脳神経外科で髄液のシャント術が行われ,髄液タップテストで改善が得られた19例のうち16例(84.2%)で手術により症状が改善したが,改善しなかった3例は全例,手術で症状は改善しなかった.
ー当科では治療可能な認知症である正常圧水頭症の診断について積極的に取り組んでいます.
3. Characteristics of cause of death and triggers for crisis in patients with myasthenia gravis
(重症筋無力症患者における死亡原因とクリーゼの誘因の特徴)
Neurol Clin Neurosci. 2022;10:147–154.
杉本太路,越智一秀,山脇健盛,内藤裕之,大野成美,野村栄一,郡山達男,丸山博文
重症筋無力症患者の死亡原因とクリーゼの誘因についての知見を高めることは患者を日常生活でより注意深く行動させるかもしれない.我々は,233名の重症筋無力症の患者を対象に研究を行った.観察期間中に8名が亡くなり,その原因は4名が癌,2名が突然死,あとは胸腺腫と椎骨動脈解離が1名ずつであった.14名がクリーゼを生じ,最も一般的な誘因は呼吸器感染でコリン作動性クリーゼやメチルプレドニゾロン治療によるものが続いた.重症筋無力症患者においては呼吸器感染や癌に特に留意し診療にあたる必要がある.重症筋無力症の突然死についてはさらなる研究を行うべきである.
ー当科では重症筋無力症の診断と治療に積極的に取り組んでいます.
4. Prognosis Prediction Using Magnetic Resonance Spectroscopy and Oligoclonal Bands in Central Nervous System Methotrexate-associated Lymphoproliferative Disorder(中枢神経原発メソトレキサート関連リンパ増殖性疾患のMRSとオリゴクローナルバンドを用いた予後予測)
Intern Med. 2022 (Published Online) . doi: 10.2169/internalmedicine.9296-21.
上野弘貴,大野成美,阿部貴文,木本和希,松岡千加,儀賀麻由実,内藤裕之,河野智之,高須深雪,木谷尚哉,山崎理恵,市村浩一,野村栄一
中枢神経原発メソトレキサート関連リンパ増殖性疾患(CNS-MTX-LPD)は稀だが,投薬中止により自然に寛解が得られる症例も見られる.我々は,関節リウマチに対して経口メソトレキサートを投与中にCNS-MTX-LPDを発症した3症例を報告する.いずれもEBウイルスとオリゴクローナルバンドが陽性で,1 H-MRSでlipidが上昇している一方でcholine/N-acetylaspartate比の上昇は軽度に止まっていた.メソトレキサートの中止後に3症例とも病巣は縮小した.今回のような1 H-MRSの所見やオリゴクローナルバンドが陽性であることは,CNS-MTX-LPDの良性タイプ(非モノクローナルなリンパ増殖)であることを反映しているのかもしれない.
ー当科では脳神経外科など他科と協力し,リンパ増殖性疾患,悪性リンパ腫の診断と治療に積極的に取り組んでいます.
5. 発症5 年以上の全身型重症筋無力症患者の重症筋無力症-日常生活動作スコアに関連する因子の検討:難治性の診断のために
臨床神経 2022;62:915-921
杉本太路、山脇健盛、内藤裕之、大野成美、儀賀麻由実、河野智之、越智一秀、郡山達男、野村栄一、丸山博文
当科で診療した発症から5 年以上の全身型重症筋無力症患者55 例を解析対象とし,最終観察時重症筋無力症-日常生活動作(the Myasthenia Gravis Activities of Daily Living,以下MG-ADL と略記)スコアが高い群の特徴を解析した.最終観察時MG-ADL スコアの関連因子は総速効性治療回数とMyasthenia Gravis Foundationof America(MGFA)分類であった.MG-ADL スコア5 以上の患者では1)発症時年齢が若年で,2)罹病期間が長く,3)MGFA V 症例が多く,4)総FT 回数が多く,5)最終観察時PSL 量が多かった.MGFA V 症例,E-L-T分類によらず発症年齢が若年である症例,PSL 量の減量が困難な症例はより早期に新規治療の対象になる可能性があり,前向き研究での検証が期待される.
ー当科では重症筋無力症の診断と治療に積極的に取り組んでいます.